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2022.07.02

七、林家木久扇師匠が語る「落語 茶の湯」

七、林家木久扇師匠が語る「落語 茶の湯」 七、林家木久扇師匠が語る「落語 茶の湯」

今月のお話は、日本茶が出てくる落語「茶の湯」です。茶の湯とは、人を招いて抹茶をたててもてなすこと。さぞ風流な人情咄かと思いきや……。

七、林家木久扇師匠が語る「落語 茶の湯」

蔵前の商家を息子に譲ったご隠居が、小僧と共に根岸の里に越してきた。
コツコツ商売一筋で倹約のために趣味の一つももたなかったご隠居。
隠居所には前の住民が残した茶道具一式があり、
これを機に茶の湯を始めることにした。

しかし小僧の手前、作法を知らないとは言えない。
小僧に「緑の粉を買ってこい」と使いを出すと、買ってきたのは青きな粉。
立ててみるが当然泡立たない。
次に「泡が出る粉を買ってこい」と使いを出すと、買ってきたのは椋(ムク)の皮。
“椋の皮”とは椋の木の皮ではなくムクロジの木の実の皮。サポニンという天然の界面活性剤が多く含まれており、古来より石鹸として利用されてきた。
そんなものを入れたのだから、泡は立つが味は恐ろしくマズい。
ご隠居と小僧は「あぁ、風流だなァ」とやせ我慢をして飲み干すがお腹を下してしまう。

自分たちで飲むのは辛いので、客を呼んで接待することにした。
呼ばれたのは近所の物知りで通っていた豆腐屋、大工の頭(かしら)、手習いのお師匠さん。
呼ばれた客も茶の湯なんて知らない。
飲んではみたものの、あまりのマズさに慌てて羊羹を口の中に。
羊羹が美味しかったのでなんとか我慢できた。

人をもてなすことが楽しくなったご隠居はその後も茶の湯を開き、
客は羊羹目当てにやってくるように。
しかし菓子代がかかる。
そこでサツマイモをたくさん買ってきて、小僧と二人でふかしてつぶし、
黒砂糖や黒蜜を混ぜると非常に美味しい。
ここでやめておけばいいものを、真っ黒な灯油(ともしびあぶら)を
塗ったお猪口で固めて抜いて、勝手に「利休饅頭」と名前を付けた。
当時行灯などに使う油は魚の油を使っているので、
見た目はテカリがあっていいが、生臭いしヌルッとしてる。

招かれた客は茶を我慢して飲み、菓子をつまむ振りして袂へ隠し、
雪隠(トイレ)に立って、そこの窓からぶん投げる。
饅頭は垣根を越え、隣の畑で作業中のお百姓の横っ面にべちゃっ!
「エェ汚い!また茶の湯が始まったのか」

お茶の新緑園(画像11422)

この落語は江戸小咄に原話があるが、
他にも茶についていろいろな小咄がある。
「お前は熱いお茶を人より早く飲むが、どうして平気で飲めるのか」
「いやいや、あれは造作もないものさ。
まず二口三口を飲み込んで、あとは死んだつもりでぐっと飲む」
江戸っ子は熱い湯にやせ我慢して入るのが粋とされていたが、
お茶まで決死で飲んで粋がっているのが笑ってしまう。

お茶の新緑園(画像11424)

昔の人はチップを置くのを「これは茶代だよ」と言っていた。
最近は廃れて一律「サービス料」などの名称で徴収されている。
同じ取られるなら「お茶代」の方が風流で心がこもっている気がするんだけどなァ。

お茶の新緑園(画像11426)

林家木久扇(はやしや・きくおう)
1937年生まれの落語家、漫画家、画家、YouTuber。
漫画家を経て1960年に落語界入り。
1969年には日本テレビ「笑点」のレギュラーメンバー入り。
1973年に真打ちに昇進し、
2007年には落語界史上初の親子W襲名により「林家木久扇」となる。
時代に呼応した新鮮な話芸をもち、アート、ラーメン、絵画、歌、役者、エッセイなど、下町の粋を伝えるマルチな落語家としてお茶の間に人気。
2020年には念願のYouTuberデビュー。
HIKAKINに師事してKIKUKIN名義でチャンネルを開設。
そして同年8月には芸能生活60周年を迎えた。

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